double contract 第5話


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CAST
セイ/sei/音成ねね様
クロム/crom/飛鷺銀様
ニース/nees/織山カヨ様


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+補足

 【 】内はただの読み方です。
 ( )は演じる上での指定になります。
 途中で出てくる、セイM、のMはモノローグを表しています。
 (お手数ですが、台詞番号_sei_m と保存お願い致します)
 


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○ クロムの家・部屋



   カチ、カチ、カチ…としばらく沈黙を打ち消すように軽い時計の音。


001_セイ「…………ぅ……ぁ……ぇと……」(そわそわと)


   時計の音だけが鳴る。


002_セイ「…………ぅ、ぅぅ……」(いたたまれなさそうに)


   時計の音が少し大きくなる。


003_セイM「 どうして……この人は、何も喋らないんだろう………… 」


   時計の音が徐々に大きくなる。


004_セイM「 とてつもなく……物凄く…………この状況って、嫌だ……! 」

005_セイ「あ……あの……っ!」

006_クロム「出てけ」

007_セイM「 ……………………は……?」

008_セイ「え、えと……」

009_クロム「出ていけ」

010_セイ「――――――!で、出ていけません!…………め、迷惑をおかけしたのは本当に申し
 訳ありません……。で、でもさっき言いましたけど、僕、ブルーベックさんに仕事の依頼をし
 にきたんです……!」


   沈黙を誘うかのように、再び時計の音。


011_セイM「 う、うう……、なんで…なんで黙るんだろう……。しかも、何だかもしかして、
 み、見てる……?ああっ、物凄く見てる、見られてる、睨まれてる……っ; 」

012_セイM「 何だか……凄く、冷たい目……エメラルドグリーンの、宝石みたいで凄く綺麗な
 のに、凄く、怖い…………。時間が、止まってるみたいだ。全然動かないから……息をしてい
 るのかもわからない位 」

013_セイ「・・・・・・っ」(目をそらす)

014_セイM「 視線が・・・視線が強すぎて、まともに合わす事ができない・・・ 」


   カタン、とクロムが立ち上がる。そしてセイに近づいてくる。


015_セイ「えっ、あ、あの、・・・・・・・・・ふぇっ!?」


   ガッ、と襟を掴まれ持ち上げるセイ。

016_セイM「 えっ、な、何・・・!?地面がいつもより遠い、えっ、も、持ち上げられてる…!?
 しかもちょっと待った、首根【くびね】っこ、ね、猫じゃないのに・・・っ! 」


   そのまま部屋を出て玄関に向かう。ガチャリ、と玄関の戸を開ける。


017_セイ「え、え?な・・・えぇっ!?」


   セイはポイッと外に投げられ、バタンッ、と戸が閉まる。
   しばしの沈黙、流れる冷たい風。


018_セイ「な、何が・・・・・・どう・・・・・・」

019_セイM「 ・・・・・・・・・もしかして・・・自分で出て行かなかったから、無理矢理、追い、出され
 た・・・・・・?・・・そ、そんな、そりゃあお金はないし、迷惑もかけたし、当然といえば当然だけ
 ど・・・・・・・・・・・・でも・・・っ! 」


   ドンドンッ!、とセイが戸を叩く。


020_セイ「・・・っお願いします!ブルーベックさん!!お願いします、お願いします・・・!!妹が
 ・・・っ・・・時間が無いんです、少しでも、少しでも早く行かなきゃ!・・・お願いします!お願い
 します、ブルーベックさん・・・!!お願いします、お願い・・・・・・っ」


   それからしばらくして、教会の鐘の音が刻を告げる。
   長い間続けていて、大分弱ったノック音が途切れ途切れにする。

021_セイ「・・・・・・・・・おねが・・・い、します・・・・・・・・・・・・おね・・・・・・」(弱りながら)

022_セイM「 ・・・どれだけ、どれだけ続ければいいんだろう、いつか、出てきてくれるだろう
 か・・・・・・でも・・・・・・諦めるしか、ないのかな・・・・・・やっぱり・・・僕1人で行くしか・・・・・・ 」

023_セイ「(重いため息を1つ)」

024_ニース「あらぁ、どうしたのさボク」

025_セイ「えっ」

026_ニース「あは、やっぱり昨日のボクだ。昨日の今日だ、さすがに忘れてはいないだろうねぇ」

027_セイ「あっ、は、はい!昨日、道を教えてくださった・・・」

028_ニース「そうそう。あーよかった、ボーッとしてたからボケちまったのかと思ってたよ。っ
 て、若い子に言う事じゃないか、むしろその心配は自分にしろってね、あっはは!」

029_セイ「いえ、そんな」

030_ニース「それにしても・・・・・・玄関先で何してるんだい?あれからクロム先生には会えたんだ
 ろう?」

031_セイ「え、あ、あ・・・はい」

032_ニース「今は?いないのかい?おかしいわねぇ、さっきジル先生んトコのコマちゃんに会っ
 た時、クロム先生は家にいるって教えてもらったのに」

033_セイ「ジル先生・・・?」

034_ニース「ああ、ジル先生ってのはすぐそこの、ホラ、あの斜め向かいの医院の先生だよ。若
 いけど立派なお医者さん。コマちゃんはジル先生の助手をやってる子なんだ」

コマ(4話のを使用)『 オイラはこの近くの医院の、助手兼給士をやっとってな 』

035_セイ「あんな所に、医院が・・・・・・」


   コンコン、コンコンッ、とニースが戸を軽くノックする。


036_ニース「先生、クロム先生〜、いないんですか〜?」


   少ししてカチャリ、と戸が開く。


037_クロム「・・・・・・はい。あぁ、ニースさん。どうしました?」(ここから穏和に対応です)

038_ニース「あぁ、何だ、いるじゃないの。いやねぇ、昨日ウチの旦那がおつり間違って渡しち
 ゃったみたいでね。はいコレ、悪かったねぇ」

038_クロム「え?そんな、わざわざ」

039_セイM「 ・・・・・・あれ・・・? 」

040_クロム「ありがとうございます。店のほう忙しいでしょう、明日でも良かったのに」

041_ニース「いいや、客商売は信用第一だからねぇ。今は旦那にまかせてあるよ」

042_クロム「はは。大丈夫ですよ、気にしてませんとお伝え下さい。きつく言わないであげて下
 さいね」

043_セイM「 あ・・・あれ? 」

044_ニース「おや、困ったねぇ、もう遅いんだよ。今朝こっぴどく叱りつけちまった」

045_クロム「だろうと思いましたけど」

046_ニース「あはははは!クロム先生には見抜かれてたか」

047_セイM「 ……おかしい。え?ちょっと待って………この柔らかい表情の、愛想の良い、さ

 っきまで冷たかった瞳が嘘のように穏やかなこの人は………誰? 」

048_ニース「ん。ああ、それとねぇ、この子ずっと玄関の前にいたみたいだけど、どうしたのか
 ねぇ?昨日会ったんだろう?」

049_セイ「!」


   しばしの沈黙。


050_セイ「……え、あ……」

051_セイM「 こっ、怖い…!ブルーベックさん、か、顔は笑ってるのに、こ、怖い……っ 」

052_クロム「……おや、私にまだ用事ですか?」

053_セイM「 爽やかな…物凄く爽やかな笑顔……だ、だけど、とてつもない殺気を感じる…;
 ただならぬ負の気配が…じわじわと……ま、まさか…っ、捕って喰われはしないよね…… 」

054_セイ「…………は、はいぃ……」

055_ニース「じゃあ、クロム先生、私は店に戻るわ」

056_クロム「あ、わざわざすみませんでした」

057_「いえいえ〜。また来ておくれよ〜」


   遠ざかるニース。

058_セイ「え…えと………」

059_クロム「……まだいたのか」(ここから素の冷たい表情に戻ります)

060_セイ「あ、あの僕」

061_クロム「…………入れ」

062_セイ「え」


   そのままクロムはスタスタと部屋へ入っていく。

063_セイM「 今…確かに言ったよね、帰れ、じゃなくて…出て行け、じゃなくて…… 」

064_セイ「は、はいっ!」


   セイも続いて入っていく、戸が閉まる。



○ 居間



065_クロム「――――――最初に断っておくが」

066_セイ「はい」(にこにこと)

067_クロム「どんなに追い出しても、さっきのようにお前がずっと玄関前にいると…意味がない」

068_セイ「ごめんなさい」(にこにこと)

069_クロム「ただでさえこの街は、ニースさんの様に人の世話を焼きたがる人間が多い」

070_セイ「そうなんですか」(にこにこと)

071_クロム「そうすると…下手すれば金も食べ物も持たない少年を追い出した、と噂が流れ、俺の信用
 が失われる」

072_「困りますね」(にこにこと)

073_クロム「…………おい」

074_セイ「はい?」(にこにこと)

075_クロム「……どうしてニヤついている。気持ちが悪い」

076_セイ「いえ、あの、ブルーベックさんが依頼引き受けてくれると思ったらつい……」

077_クロム「(溜息をひとつしてから)誰が引き受けると言った……?」

078_セイ「……………え」

079_セイ「えっ、ええっ、え、あ、あの、何でっ、何でですかっ!?」

080_クロム「(溜息を深くひとつ)」


   クロムが椅子から立ち上がる。


081_クロム「金も無い、保証も無い、信用も勿論無い。一体そんな奴相手に…………とにかく今

 はお前をどう上手く追い返すか、考えている」

082_セイ「そんな……!ルカはどうなるんですかっ!?コントラクターはエリアの悪い人達を倒

 すのが仕事なんでしょう……!?」

083_クロム「お前は別だ。仕事にならない」

084_セイ「今までエリアがある事だって知らなかったんです!コントラクターの事情なんて余計

 にわかりません!」

085_セイM「 自分でもメチャクチャな事を言っているのはわかってる。けど、ここで引き下が

る訳にはいかない。時間が無い……! 」

086_セイ「本当に何が何だかわからなくて……だからエリア22ができるって聞いた時もピン、

 とこなかったくらいで……でもっ、妹がそのエリアの人達に連れて行かれたのは、信じられな

 くても事実なんです!だから!」

087_クロム「待て。今……エリア22と言わなかったか」

088_セイ「えっ……言いましたけど……僕の住んでる街に、バールに新しくエリアができるって

 皆が……」

089_クロム「そいつらは今どこにいる?」

090_セイ「え、えと、ルクスから視察【しさつ】に来てたって話は聞いたんですけど……ここに

 はエリアが2つあるんですよね」

091_クロム「エリア6と11だ。しかし、新しいエリアができるとなると……あいつが来ている

 かもしれないな……」

092_セイM「 あいつ……? 」

093_クロム「…………この依頼、受けてもいい」

094_セイ「………っ!ホ、ホントですかっ!?」

095_クロム「ただし条件がある。…………見返りだ」

096_セイ「……み、見返りですか」

097_クロム「そうだ。タダでやる気など毛頭【もうとう】無い。かと言ってお前に金は無い。そ

 れならそれなりの見返りを要求する」

098_セイM「 見返り。見返り……?そんな……もの……無い。全部森で取られたから、何も、

 あげれる物が無い。しかも、元々値【ね】になりそうな物も無かった…… 」

099_クロム「その様子だと何も無さそうだな。じゃあ、この話は決裂」

100_セイ「なっ!何でもしますっ!!」

101_クロム「…………は?」

102_セイ「恥ずかしいんですけど、見返りになるような物がないんです……!だから、僕にでき

 る事なら何でもしますから、お願いしますっ!」

103_クロム「……〜〜〜〜〜〜っ」(どうしてそうなるんだ、呆れながら)

104_セイ「あ、あの……」

105_クロム「……何でも、本当に何でも、だな?」

106_セイ「はいっ」

107_クロム「……ちょうどいい、捨て駒が欲しかった所だ。よし、それなら依頼を受けよう」

108_セイ「…………!!」(嬉しげに)

109_クロム「(フ、と軽く怪しく笑ってから)じゃあ、始めるか」

110_セイ「今から行くんですね!」


   しばしの間。


111_セイ「……?」

112_クロム「いいや、行くのはもう少し後だ。情報も足りないしな。ウチの情報担当に連絡を取った後

 …………契約だ」





第5話・終了










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